≪ 一絃琴楽風会 ≫

 一絃琴は、たった一本の弦で奏でられる哀愁を帯びながらも凛とした音色をもつ楽器です。
一絃琴は「一つ緒」「須磨琴」「板琴」等と呼ばれております。その歴史は古く、一絃琴が正史に表れるのは、「日本後記」の桓武天皇延暦十八年に記載されています。
 青森県八戸市の是川中居遺跡で出土した縄文晩期の「へら形木製品」は世界最古の弦楽器(縄文琴)とも言われ、弥生時代出土の「琴弾く埴輪像」は原形を残しています。それらを含め、神話に出てくる「板琴」、「神依板」とあるのは一弦琴に近い楽器であると言われています。このように、世界でもその歴史は古く、他の楽器と比べましても神話、説話に富み、物語として現在に伝わっています。

   

―《 一弦琴の精神 》―

一弦琴は一本であるが故に素朴で質素な楽器です。しかし、一本であるが故に奏者の心の音が弦を通して響くのです。中国の諺に「知音」という言葉がありますが、音はその人の感情思いを表してくれるものです。この一本の弦から弾かれる小鳥の囀り、虫の音、川の流れ等の自然の音は心を清々しくさせてくれます。又、一本の弦から発せられる様々な音色に驚かされると思います。
   
 一弦琴が隆盛を留めたのは江戸時代中期から明治時代初期迄です。そこには復古思想を唱えた公卿、国学者、伊勢神宮神官、勤皇の志士達の存在がありました。それは、「やまとごころ」なる「日本人の和歌のこころ」、たまごころなる「敷島の道」である和歌を唱和する格好の楽器であるという当代では極めて意趣な楽器であったわけです。
 そこで、日本人の「やまとごころ」の精神のなんたるや・・・を現代人に聴いて頂く為に、万葉集、古典の和歌を弾き語ると共に、万葉人が述べた日本人の言葉に宿る言葉の力とは「言霊学トーク」のライブ演奏活動を行っています。
   

《 日本のこころを語る 》
一弦琴が奏れる「もののあはれ」
『「歌は「もののあはれ」を知るよりいで来るものなり。生きとし生けるものは皆心あり、心あればものにふれて思うことあり、「もののあはれ」を知ることは物に感じ、物にふれて心動き「うれし」「かなし」と深く思うことである。その深く思う心を表現する時に歌が生まれる。』と江戸時代の国学者本居宣長は述べています。
この「もののあはれ」を誘う格好の楽器が哀楚を帯びた一弦琴です。そこで江戸時代の公卿、歌人、国学者、隠遁者に持て囃されるのです。演奏会では「もののあはれ」を講話した後に、一弦琴と篠笛の演奏を行い「日本の古へのこころ」を味わって頂いております。

一、「須 磨」(在原行平)  わくらはに問ふ人あらば・・・
在原業平の兄。平安時代後期の宮廷歌人。宮廷官職から失職して神戸の須磨に流罪。そこでの悲しみを一弦琴を弾じながら歌った歌が古典の名曲「須磨」。そこから一弦琴を「須磨琴」とも言う。
一、「漁 火」(柿本人麻呂) ・・・いざよふ波の行方も知らず
宮廷歌人で万葉第一の歌人、歌聖とも言われながら高位高官に就くことなく、晩年は家族と離れて地方官として遠く石見国(島根県)に没す。世の移ろいのはかなさを万葉集に書き記す。この歌意は人生は自らの判断、作為でなく、時の流れに翻弄されて行く宮廷人、戦に行く兵士の生きざまを宇治川の流れにたとえて歌った歌。
一、「無 常」(方丈記 鴨 長明) ゆく河の流れは絶えずして・・・
鎌倉時代初期の随筆家。下賀茂神社の神職家に生まれ、若かりし頃は裕福な生活であったが、父が早世することにより生活苦の中で歌人としての名声を上げる。神職復活の声がかかるが一族の反対にあい、それより出家して遁世生活に入り京都日野の草庵で「方丈記」を完成。
一、「赤壁の賦」(蘇東坡)  ・・・人生ここにいくばくぞ
北宋の詩人。若かりし頃より秀才の誉れとしてエリートコースを歩む。然し、改変の度に求刑流罪となる。宮廷出仕謹慎、閉門等官歴40年のうち10年ばかり蟄居生活を費やす。悲劇の政治家と言われ、過酷な逆境の中で詩作に耽り、現代に多くの名作を残している。明治の政治家、文人墨客に多大なる精神的影響を与えている。
その他に、「泊仙操」・「我ひとり」・「水琴窟」・「かあさんのうた」など古典、童謡、民謡の曲多数。
○、しの笛・・もがり笛・童謡(浜千鳥、赤とんぼ、出船、荒城の月。五木の子守歌など他

《 遥かなる古の響き 》
古代からの古典民族楽器には「弦楽器」としては「一弦琴」。「打楽器」に「太鼓」。篠竹に穴をあけて音を出す「篠笛」。「吹奏楽器」の原型となる「石笛」「土笛」。「石笛」はニホ貝が石に穴をあけてできたもので、海岸を歩いていると足元に転がっている石を見つけることができます。古代の縄文人はその穴に口をつけて、音を楽しんでいたかも知れません。そのような古代の古典楽器による―「遥かなる古への響き」―の演奏活動を行っています。

現代の騒がしい生活の中で、自分をゆっくり見つめ直したい等、哀楚を帯びた一弦の琴の音は自らを浄化し、幽玄の世界へ誘ってくれることでしょう。                          
 私達は、このように日本の古典文学と関わりの深い一弦琴を一人でも多くの人に聴いて頂く為に演奏活動を行っています。学校での邦楽授業に取り入れて見て下さい。国語、古典、音楽の授業に最適です。少人数をはじめ、集会の 余興、講演などの集まりでもお伺い致しますのでご連絡下さい。
                電話 0594-21-5921番